今年は東日本大震災から10年ということもあり、震災をテーマにした仕事が例年以上に多いです。ですが、取材すればするほど、10年という月日が節目ではなく、これからもずっと続いく「震災後の日々」なのだと思い知らされます。
2月19日に発売予定の『お空から、ちゃんと見ててね。——作文集・東日本大震災遺児たちの10年』(あしなが育英会・編/朝日新聞出版)は、震災で家族を亡くした子どもたちの作文集です。
あしなが育英会は、遺児たちの学費支援だけでなく、心のケアにも力を入れています。そのきっかけになったのは、阪神・淡路大震災でした。遺児たちが親との別れで負った心の痛みや傷を癒す場として作られた施設が「レインボーハウス」です。東日本大震災でも、東京に加え、仙台、石巻、陸前高田市にそれぞれ「東北レインボーハウス」が作られました。い
レインボーハウスでは、日帰りや泊まりがけで、子どもたちが安心して思いっきり遊んだり、おしゃべりしたりできるようにファシリテーターさんたちが見守っています。作文はそのプログラムの最後に用意されたメニューの一つで、文字に書き起こすことで、心のなかに抱えているものを言語化する目的もあります。同じ子どもがレインボーハウスに何年も通うなかで書く作文には、成長や心の変化が見られます。また、作文が苦手でうまく言葉にできない子どもも。報道を通してだけでは分からない、リアルな子どもたちの姿が作文には現れています。
この本のなかで私は、第3章のインタビューを担当しました。震災から10年経ち、20歳前後に成長した子どもたちに取材し、当時のことや今の生活の様子を教えてもらいました。取材のなかで、「ああ、そうか」と教えられたのは、周囲に色眼鏡で見られることなく過ごせる場の必要性でした。レインボーハウスに来れば、集う子どもたちがみな似た立場にあり、「親が亡くなった子ども」という目で見られることがありません。それは、こどもたちにとって、とても安心できる場なのです。しかし一方で、親が亡くなっていなければ来る必要もなかった場所です。作文やインタビューからは、レインボーハウスを避難所にし、心の拠り所にしながら、淋しさや悔しさ、怒りも抱えながら、成長してきたことが伝わってきました。
今、「レインボーハウス」を利用しているのは、東日本大震災の当時、生まれたばかりだったり、お母さんのおなかにいたりと、幼かった子どもたちが中心になってきています。彼らは亡くなった親の記憶も震災の記憶も薄いけれど、お父さん、あるいはお母さんがいない、という喪失感は抱えています。そんな年代の違いによる震災への向き合い方についても、この本を通じて教えられることになりました。
今回、あしなが育英会さんの本に関わることができたのは、個人的にもちょっとしたトピックスでした。私は東日本大震災以前から、あしなが育英会の募金活動を見かけると心ばかりの募金をしてきました。その頃は、子どもは未来だから、というぼんやりとした気持ちでしたが、東日本大震災が起きてからは、毎年、「RRチャリティ手ぬぐいプロジェクト」という名称の募金活動をしています。テキスタイルデザイナーのたかはしまきさんと一緒にオリジナルデザインの手ぬぐいを作成し、皆さんに寄付付きの価格でご購入いただき、制作費以外の全額を寄付するという活動です。
『お空から、ちゃんと見ててね』に関わったのは、まったくの偶然でした。事務局の方が『私の夢まで、会いに来てくれた』をご覧になり、「こういう本を作りたい」ということで、朝日新聞出版に相談し、それが回り回って、私にも声がかかったという次第なのです。
仙台出身とはいえ、東京暮らしが長くなり、被災地の復興に言葉にして言えるほどのことはできていませんでしたが、『私の夢まで、会いに来てくれた』に続き、本業を生かす形でお手伝いができたことは、仕事を続けてきてよかったと思ったことの一つになりました。
大人向けには制作していますが、この本の主役は子どもたちです。年齢を問わず、子どもたちにも読んでもらえるといいなぁと思っています。
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