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執筆者の写真Naoko Tsunoda

「ゲーム・オブ・スローンズ」料理本のシリアスとジョークの間


登場人物の多さとエログロシーンが災いしたのか、日本での人気がいまいち限定的だった「ゲーム・オブ・スローンズ」だが、アメリカでは関連本として料理本まで出ている。


1冊は原作者のジョージ・R・R・マーティン公認の『A FEAST OF ICE&FIRE』、もう1冊は非公式本の『GAME OF SCONES』だ。


『ICE&FIRE』は公式本ということもあって、中身はまっとうな料理本。ウィンターフェルやキングスランディング、ブラックキャッスルなどで、登場人物が食べていたのは、どんな食事だったのかを再現したもの。原作の一部を流用するなどして、推測しながら作られたレシピだ。リーキスープとか「これは!」と目をひくレシピもあるけれど、いたって真面目な内容なので、面白みには欠ける。料理のレパートリーを広げるのには役立つだろうけど。


私がファンにおすすめするとしたら、『GAME OF SCONES』のほうだ。タイトルからして、すでに真面目な料理本ではないだろうという予感ひしひし。Amazon.comから届いて見たら、案の定、ジョーク料理本だった。


「Oberyn's Smashing Surrise」なんて、卵形チョコの中身にはたっぷりラズベリーのジェリーが詰まっている。卵形チョコにアイシングでオベリンの顔が細工され、目を潰すと、ドバッと真っ赤なジェリーが出てくる仕掛けだ。


紋章をクッキーにしたり、北の壁をお菓子で再現したり、やや真面目なものもあるのだが、この本の魅力は、やっぱりドラマのグロシーンを再現したお菓子。たとえば、オレンジジェリーの上にクリームを敷き詰め、見開いた目と血管ががっちり浮き出ている模様が描かれているのは、「Joffrey's Jaffa Poison Cup」。ジョフリーが毒を飲んだあのシーンの顔がお菓子になっている。


「レッド・ウェディング」用のケーキも、もちろんばっちり。三段重ねの白いケーキの頂上を飾る新郎新婦は、新婦が新郎のノドをかっさばいているし、そこから真っ赤なシロップが盛大に三段目までしたたり落ちている。よほど大ファンのカップルなら結婚式に使うのかもしれないが、いったいいつ食べるんだろうというシロモノ。


これもあるのか、とちょっと感動したのは、ネッドと重臣たちがさらし首になったシーンの再現ケーキ。丸いスポンジケーキにネッドたちの顔が描かれ、竹ひごのような棒で串刺しにされている。


見方によっては趣味が悪い料理本だし、デコレーションの仕方とできあがりの写真で売ってる一発芸本なのだが、「ゲーム・オブ・スローンズ」にはまった身には、こちらの本のほうが楽しい。たぶん、味は甘ったるいだけで、そうおいしくないはず。料理本というよりは、プラモデルの作り方を教えるようなホビー本と言ったほうがいいのだろう。


本の作りは、オールカラーでハードカバーと立派。作者とデザイナーのクレジットが、ジェイミー・ラニスターというのも、おちょくっている。ドラマに登場する美術やデザインを流用してはいないけれど、鉄の玉座にナイフとフォークを使ったり、狼のシルエットがナプキンを首に巻いていたり、ドラマを観ていた人ならすぐに「あれ」と分かる。日本なら、ドラマにまつわる本を作ろうと思ったら、TV局におうかがいを立てないと、まず無理。こういうパロディ本を堂々と出版できてしまうところが、アメリカの出版界の不思議なところだ。




『GAME OF SCONES』は、Amazon.co.jpでは取り扱いがないので、Amazon.comへ。

https://www.amazon.com/Game-Scones-Must-Dine-Parody/dp/0062445545/ref=sr_1_1?keywords=GAME+OF+SCONES&qid=1563175308&s=gateway&sr=8-1





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